【声明】暴力やハラスメントに無縁のスポーツ指導の実現へ貢献する
スポーツ指導における暴力やハラスメントは、わが国では古くからある問題の 1 つですが、2012 年から 2013 年にかけて高校の運動部活動と競技団体の強化活動で起きた暴力事件が端緒となり重大な社会的問題と見なされるようになりました。スポーツ界でも事態を重く受け止め、2013 年に日本体育協会や日本オリンピック委員会などの5団体が連名で「スポーツ界における暴力行為根絶宣言」を出し、暴力やハラスメントの問題に対してスポーツ界がこぞって積極的に取り組むことを表明しました。また、時を同じくして、日本体育学会を始め体育・スポーツに関する幾つかの学会においても、問題の解決に向け学術的に貢献することを表明し、様々な提言を行なっています。
スポーツ界における暴力やハラスメントの根絶に向けた 2013 年以降の取り組みには確かに一定の成果が見られましたが、その一方で、近年、様々な年齢・競技レベルのスポーツ指導の場で暴力やハラスメントが起きていることが次々と報道されています。また、文部科学省が実施している体罰の実態調査(2018 年度まで実施済み)を見ると、中学・高校の部活動における体罰(暴力)は 2013 年度から 2015 年度までは減少したものの、2016 年度以降は減少傾向が見られず、毎年 180 件以上もの事例が報告されています。
このような状況の中、本年 7 月に国際人権NGO のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)がわが国のスポーツ指導における子ども(18 歳未満)への暴力やハラスメントに関する調査報告書を発表しました。その内容は、国内でのインタビュー、アンケート、ニュース記事のモニタリングなどに基づいてわが国のスポーツ指導における子ども(18 歳未満)への暴力やハラスメントの実態を示し、国やスポーツ団体・組織へ制度上の改革を提言したものです。この調査報告書では、調査の結果得られた暴力やハラスメントの事例が年次別に示されていないために、2013 年以降の時系列的な傾向や現在の状況が定かではありませんが、わが国のスポーツ指導の場で年少者や若者への暴力やハラスメントが依然としてまだ根深く存在していることが示唆されています。
以上から、2013 年以降の様々な取り組みにも関わらず、スポーツ指導における暴力やハラスメントの問題は現在もなお大きな問題として我々の前に存在していると認識しなければなりません。暴力やハラスメントは、喜び、楽しさ、幸福、尊敬といった本来スポーツが有する価値と対極にあるものであり、スポーツ指導の場から一掃されるべきものです。しかしそのためには、これまでの取り組みでは不十分であることを近年の状況が示しています。したがって、スポーツ指導に関わる団体や組織は、それぞれの立場で現在の取り組みを超える更なる取り組みを進める必要があります。その意味では、今回の HRW の提言にも真摯に耳を傾けなければなりません。
日本コーチング学会はスポーツ指導に関する科学的研究をその中心に据えた学術団体であり、科学的に裏付けられた効果的かつ健全な指導方法を確立することを目指しています。したがって、スポーツ指導において暴力やハラスメントが依然として深刻な問題となっている現在の状況を決して看過することはできません。状況の打開に向け、今後の新たな取り組みの立案や評価に学術的立場から積極的に関わっていく責務が、本学会にはあると考えます。
日本コーチング学会は、今後、暴力やハラスメントに無縁のスポーツ指導の実現に向け、新たな視点を持ちながら活発に学術活動を展開し貢献していくことをここに表明します。
2020年9月16日
日本コーチング学会理事会
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