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2022年度学会賞受賞者インタビュー「研究で得られた知見を実践する面白さ」
2022年度日本コーチング学会の学会賞を受賞された、小口貴久さん(日本オリンピック委員会 )は、2002年、2006年、2010年の3大会連続で冬季オリンピックに出場されました。競技者の少ない種目で、競技力を高めるためにご自身のトップアスリートとしての経験を生かし、かつ客観的な手法として提示されたコーチングの研究が高く評価されました。
– 小口さんのご専門と研究テーマを教えてください。
私の専門はそり競技のコーチング論です。特にスタート局面について世界一流アスリートがどのような動きをしていて、それをどのように身につけていけるのか、動作分析の手法を用いて研究を行っています。
– なぜ研究者を目指されたのでしょうか?
小学5年生からリュージュを始めて、オリンピック出場を目指していました。日本国内ではマイナー競技のため、指導者の経験や勘を中心に指導が行われていましたが、どのようにしたらより競技力が向上するのか疑問を持つようになり、大学院に進学しました。
オリンピックを目指すアスリートとして活動しながら、研究で得た新たな知見を自分自身の身体で実践していく。この大切さと面白さに出会えたことが、研究者を目指したきっかけです。
– どのような研究をされているのでしょうか?
今回賞をいただいたのは「指導用動作モデルを用いたスケルトン選手のスタート動作に関する即時フィードバックトレーニングの効果について」という論文です。
スポーツにおいて、上達したいと思ったときの方法の一つとして、上手い人の動きを見て学ぶことがあると思います。様々なスポーツ雑誌も文字だけではなく絵や図を用いて動きを解説しているものが大半ですが、マイナー競技であるそり競技ではそのような見本となる動作モデルが無く、アスリートと指導者が頭の中に同じ動作をイメージしながら練習を行うことが困難でした。
そのような中で、複数名の世界一流選手の動作を身長や四肢の長さなどを考慮して作成した平均動作を、指導用動作モデルとして示しました。そして、その動作モデルを用いながら、アスリートと動作モデルの相違を指導現場で比較する即時フィードバックトレーニングを行った際に、どのような効果が表れるのか、検証したものが本研究になります。
– 今後、どのような研究・教育活動を目指されますか?
そり競技について、現在は日本ボブスレー・リュージュ・スケルトン連盟の医・科学部員と指導者養成部員を兼務しています。そり競技の研究で得た知見を指導者に還元し、日本の競技力向上に貢献するとともに、国際連盟とも連携しながら、そり競技の普及を推進しています。
また、公益財団法人日本オリンピック委員会にて、JOCエリートアカデミー事業という中高生アスリートの育成・強化に関わっています。
「人間力なくして競技力なし」をスローガンに掲げながら、高い競技力とともに人としても充実した人生を歩み、憧れの存在となるようなアスリートに近づけるよう、そして、スポーツの力で社会課題の解決にも貢献できるよう、自身のアスリートとしての経験と研究成果も活用しながら努めていきたいと思います。
– 小口さんにとって「コーチング学」とは?
オリンピックに出場したアスリート(オリンピアン)のような、高い競技レベルにある選手の動きや経験、感覚は非常に貴重だと思います。それらを外から解明するだけでなく、アスリートも自身の動きを振り返りながら、より速く・より高く・より強く、そして共に、少しでも高みに昇っていくために欠かせないものがコーチング学であると考えています。
小口貴久(おぐち たかひさ)
公益財団法人日本オリンピック委員会
「指導用動作モデルを用いたスケルトン選手のスタート動作に関する即時フィードバックトレーニングの効果について」コーチング学研究 2021 年 35 巻 2 号 p. 19-30