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2021年度学会賞受賞者インタビュー「一人でも多くの競技者の役に立ちたい」

2021年度日本コーチング学会奨励賞を受賞された、梅﨑さゆり(天理大学体育学部 )さんは、青年海外協力隊の活動がきっかけとなって、研究者の道へ進み始めました。研究テーマについて、またご自身の目指す未来についてお話を伺いました。

梅﨑さんのご専門と研究テーマを教えてください。

私の専門はバレーボールコーチング論です。熟練者が「いつ・どこを見てどのように動いているのか」を明らかにするために、視線分析および動作分析の手法を用いて研究を行っています。

– なぜ研究者を目指されたのでしょうか?

大学卒業後に青年海外協力隊としてエチオピアに赴任し、バレーボールの指導・普及活動に従事していました。その中で、バレーボールのコーチングについてさらに学びを深めたいと思うようになり、帰国後は大学院に進学しました。修士課程において、バレーボールの熟練者と未熟練者はどこが異なるのか、特にスパイクのステップ動作に着目して分析を進めていくうちに、現場のコーチングに役立つ実践的な研究を続けていきたいと思ったのが、大学教員を目指したきっかけです

– エチオピアでの指導を通じて、印象的な事柄があれば教えてください

エチオピアで最も人気があるスポーツはサッカーですが、バレーボール人気も高く、地方の田舎であっても丸太の支柱に網を張ったバレーコートが屋外に設置されており、広く普及していることに驚きました。

一方で、バレーボールを指導できるコーチは圧倒的に不足しており、2年間のユースプロジェクトの成果をはかる大会が球技大会レベルという現状でした。日本の育成年代の指導レベルの高さを実感しました。

– 具体的にはどのような研究をされているのでしょうか?

今回賞をいただいたのは「バレーボールのトスおよびスパイクにおけるレシーバーの視覚探索行動と状況判断」という論文です。本研究では、大学生を対象にバレーボールの攻撃場面の映像を呈示し、トス方向とスパイクコースを判断する際に視線がいつ・どこに置かれているかを明らかにすることを目的としました。その結果、バレーボール選手は球技および球技以外の選手に比べ、判断時間が短いこと、セッターやスパイカーの顔や胴体などを長く注視していることが明らかとなりました。また、バレーボール選手はスパイカーが両足を踏み込むまでにスパイカーに素早く視線を先回りさせ、上体の開きや腕の振りからスパイクコースを判断していたことから、いつ・どこ を見たらいいかのヒントが浮かび上がりました。

– 今後、どのような研究・教育活動を目指されますか?

今回の研究は攻撃映像を呈示する条件でしたが、現在は実運動中の視線データを用いて研究を進めています。
今後は、未熟練者への介入実験を通して視線からアプローチする指導の効果についても研究したいと考えています。
またバレーボールだけでなく、バドミントンやテニスなどの同 じネット型に共通する熟練者の視覚行動を明らかにし、現場の指導に活用できる汎用性の高い知見を積み重ねるとともに、自身の指導フィールドにおいても実践していきたいです。

梅﨑さんにとって「コーチング学」とは?

現場で得られた個々の実践知から個別種目の指導理論を構築し、さらにそこから一般理論の構築を目指すコーチング学は、まさに私のライフワークと言えます。机上の空論ではなく、現場の指導に役立つ知見を蓄積するとともに、指導実践を通して一人でも多くの競技者の役に立ちたいと考えます

 

梅﨑さゆり(うめざきさゆり)HP

天理大学体育学部体育学会・准教授

「バレーボールのトスおよびスパイクにおけるレシーバーの視覚探索行 動と状況判断コーチング学研究 2020 年 34 巻 2 号 p. 125~137