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2023年度学会賞受賞者インタビュー「コーチング学は成長を実現するツール」

2023年度日本コーチング学会の学会賞を受賞された、林卓史さん(朝日大学)は野球選手として学生時代は岩国高校、慶應義塾大学で活躍したのち、実業団選手として2002年に社会人野球日本選手権優勝、さらに大学野球部の指導者としての経験もお持ちです。輝かしい経歴ですが、ご本人は「挫折の経験」が研究の出発点と語ります。

林さんのご専門と研究テーマを教えてください。

専門は、コーチングとスポーツマネジメントです。研究テーマは以下の2つです。

  • 野球監督の実践知および熟達化に関する研究
  • トラッキングシステムを使用した野球のコーチング方法についての研究

研究者を目指されたきっかけやタイミング、研究者になってみての面白さや難しさなど教えてください。

プレイヤー、指導者しての挫折を経験したことで、「なぜ上手くいかないのか」「どうすれば良かったのか」を知りたいと思い、大学野球部の監督を退任した時に、研究者の道を目指しました。

実際に研究の道に進んだことで、「野球はこうなっているのか」という発見がありました。野球監督の実践知についての研究では、「人には歴史があるのだな」ということを感じることも面白さの一つです。本当に面白いと思います。一方で、コーチングの難しさに通じると思うのですが、一直線にはゴールに向かって進まないところです。

– どのような研究をされているのでしょうか?

テーマの一つは、野球監督の実践知および熟達化に関する研究です。高校野球監督や大学野球監督のもつ実践知や、熟達するプロセスを明らかにする研究を実施しています。この度、表彰をしていただいた研究では、卓越した高校野球監督のもつ指導スタイルと実践知をお示ししました。

もう一つのテーマは、トラッキングシステムを使用した野球のコーチング方法についての研究です。こちらは、トラッキングデータと呼ばれる球速や球質の計測を活かした野球のコーチングについての研究を行なっています。現在、野球では様々なデータが取得できるようになり、大きな変革が起きています。計測された量的データと、選手の感覚や工夫などの質的データを組み合わせた質量混合研究を実施したいと考えています。

– 今後、どのような研究・教育活動を目指されますか?

研究では、選手の時の自分が知りたかったこと、監督だった時の自分が知りたかったことを明らかにしたいと考えています。個人的な理由で恐縮ですが、研究の推進がどなたかのニーズにマッチすることを願っています。

教育活動では、ものごとを追究することの面白さを伝えることで、スポーツ以外に応用できる力を養えると大変嬉しいです。

さんにとって「コーチング学」とは?

私は、會田宏先生がコーチングの目的として示されている「コーチングによってコーチが成長する」、「スポーツを通して、お互い(選手やコーチなど)がそれぞれの立場でひと皮むけた人間になる」{會田宏, 2016 #283}という言葉に強く勇気づけられます。コーチング学は、この言葉(「成長」)を実現するツールだと考えています。

文献:會田宏 (2016) 私の考えるコーチング論. コーチング学研究, 29(3), 79-84.

 

 

林卓史(はやし たかふみ)

HP

朝日大学保健医療学部健康スポーツ科学科 教授、博士(政策・メディア)

選手(投手)として、大学野球・社会人野球でプレーする。1997年に東京六大学野球 春季リーグ優勝、日米大学野球選手権優勝。
2002年に社会人野球日本選手権 優勝。指導者として、慶應義塾大学などで指導を行う一方、野球投手のコーチングに関する研究で博士号を取得。
近著に『球速の正体』(東洋館出版社, 2023)。
学会賞受賞論文:
野球における卓越した指導者の指導に関する事例研究:メジャーリーグにおいて活躍する2人の選手を育成した高校野球監督の語りを手がかりに
著者氏名:林 卓史, 井上 元輝, 奈良 隆章
掲載号頁:第36巻1号 https://doi.org/10.24776/jcoaching.36.1_19