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2021年度奨励賞受賞者インタビュー「親子体操の指導を志す者の「道しるべ」を目指して」

2021年度日本コーチング学会奨励賞を受賞された、古屋朝映子(川村学園女子大学教育学部幼児教育学科 )さんは親子体操教室の指導者でもあります。親子参加という点において一般的なプレイヤーと指導者で構成される指導現場とは異なる関係性に着目されています。研究テーマについて、またご自身の目指す未来についてお話を伺いました。

古屋さんのご専門と研究テーマを教えてください。

私の専門は、体操コーチング論です。親子や幼児を対象とした体操指導に関するコーチングを専門としています。質的なアプローチを用いて、指導者の立場から得られた知見をもとに、体操指導に関する新たな視点を提示することに取り組んでいます。 

– なぜ研究者を目指されたのでしょうか?

大学院を修了してしばらくは、地域の体操教室の指導補助や自身の子育てをしていました。実際に指導補助として現場に立つなかで、また母親として親子教室の受講者となって参加するなかで、自身の指導に対するたくさんの疑問や悩みが湧いてきました。それらの疑問や悩みを解決したいと思い研究をはじめたのが、現在のキャリアについたきっかけです。

– 具体的にはどのような研究をされているのでしょうか?

今回の研究は、「指導者からみた親子体操教室における参加者の『関係の変化』指導者の『対話による省察』を手掛かりとして」という論文です。本研究では、親子体操教室に参加する者の関係性の変化をどのように指導者が認識しているのかについて、研究者=指導者の対話の中から導き出し、仮説モデルとして提示することを目的としました。

その結果、指導者は、親子体操教室に参加する親子について、参加親子が単に場を共有するだけの「親子の集合体」から、母親たちと子どもたちが関係し合う集団へと変化したと認識していました。また、指導者と参加親子の関係性については、指導者と親子の相互主体的な関係へと変化したと認識していました。

– この研究で、難しかった点は何でしょうか。また、ワクワクした点は何でしょうか?

本研究は、研究者自身の省察内容、すなわち研究者自身の経験を研究の対象としており、そこに研究のオリジナリティがあります。そのような研究において、データの妥当性と信頼性に関する根拠を示すのに苦労しました。
また、省察ではかなり深い話をしていたこともあり、感情的になってしまい、省察をする「自分」と分析をする「自分」をうまく切り離すのが難しかったこともありました。
 
一方、ワクワクした点は、対話を通じて、親子体操の指導について、たくさんの気づきを得ることができたことです。今回の研究では、1年間にわたり、合計957分のも対話をおこないましたが、対話の分析から得られた知見はもとより対話そのものも指導者としての私にとって、とても大きな学びとなりました。

– 今後、どのような研究・教育活動を目指されますか?

今回の研究では、自分自身を対象としたものでしたが、今後は熟練した指導者の知見も明らかにすることにより、より深い知見の生成をおこなっていきたいです。そして最終的には、親子体操の指導を志す者の「道しるべ」となるような一つの体系的な知見としてまとめていきたいと思います。

また一方で、研究を通して得られた知見を自分自身の指導実践にも生かし、指導者としても成長していきたいと思います。

そして、指導者であり実践者である者として、一つのロールモデルを築くことができればと考えています。

– 古屋さんにとって「コーチング学」とは?

私自身は、コーチング学的視座から研究をおこなう研究者であると同時に、コーチング学で得られた知見を活用して指導を実践する実践者でもあります。個々の実践から帰納的に一般理論を導き出すことを目指すコーチング学は、このような両者、すなわち研究者である私と実践者である私をつなぐ架け橋であると考えます。

 

古屋朝映子(ふるやさえこ)HP

川村学園女子大学   教育学部幼児教育学科学部・幼児教育学科・准教授

「指導者からみた親子体操教室における参加者の『関係の変化』指導者の『対話による省察』を手掛かりとしてコーチング学研究 2020 年 34 巻 1 号 p. 15-33