会長挨拶 「日本コーチング学会」の充実をめざして
日本コーチング学会は数年にわたる組織整備を経て第二ステージを迎え、幾つかの課題を持ちながら活動を展開しているところです。特に、昨年度より力を入れ進めているコーチング学の学体系の構築は、本学会にとって喫緊の課題です。スポーツの指導実践(コーチング)そのものについては、スポーツの価値・意義に対する近年の社会的評価の高まりもあり、今やその重要性が広く認知されていると言えますが、スポーツの指導実践に関する学体系については、社会においてだけでなく、体育学あるいはスポーツ科学の世界においてもその存在が十分に認知されているとは言い難い状況にあります。
特に、将来の少子化を見据え大きな変革を余儀なくされている大学において、「コーチング学」という名称の下、スポーツの指導実践に関する学体系を構築し1つの学問領域として確立させることは急務の課題と言えます。というのも、知の産生と伝達が使命である大学という機関においては、実践だけで存在意義を主張することは難しく、それを支える学問領域の存在が不可欠であるからです。すなわち、スポーツの指導実践に関する学問領域を確立させなければ、スポーツ実践に関わる教育研究部門が大学から縮小していき、最悪の場合には消失してしまう危険性があるということです。
コーチング学の学体系を構築する活動の一環として、朝岡正雄前会長、青山清英前理事長をはじめ関係の先生方のご尽力により、本年4月に『コーチング学への招待』が発刊されました。また、引き続き、特別プロジェクトとしてコーチング学叢書特別委員会を立ち上げて、コーチング学に関する書物を発刊していく計画です。このような書籍の発刊は、学体系の構築にとって極めて効果的な活動であり、これから益々活発に展開していく必要があると考えています。また、学会大会や学会誌のあり方についても、コーチング学の学体系の構築を促進する方向で、内容を検討していくことが今後必要ではないかと思います。
研究活動がグローバルな営みであることを考えると、本学会の国際化を図ることも重要な課題と言えます。具体的には、海外の学会との連携・交流、『コーチング学研究』の英語版の発行、国際学会の開催などが今後の検討課題として挙げられます。コーチング学を確固とした学問領域の1つに確立させるためには、研究の国際通用性を高めることが不可欠であり、そのためには国内に留まらずベクトルを世界に向けることが必要となります。
以上で述べたような活動を活発に展開して学会の充実を図り、コーチング学の未来を担う若い研究者を始めとして、コーチング学に関心のある様々な立場の方々にとって魅力ある学会となることが、今後の日本コーチング学会の発展に何よりも重要と思います。そのために微力ながら力を尽くして参りますので、会員の皆様の益々の御協力を何とぞよろしくお願いいたします。
2017年4月吉日
日本コーチング学会会長
中川 昭