コーチングにおける
失敗事例からの学び

声掛けの先にある、選手同士のつながり
奈良学園中学校・高等学校 教諭 山口敬宣
失敗体験
私のコーチ人生で、失敗は数え切れないほどありました。その中でも取り返しののつかない失敗について書きます。
20数年前のコーチ人生の初期に、ある中学生年代のチームを任されていました。クラブとしての育成指針はプロサッカー選手を育てるというよりも、人を育てるというものでした。ただ、所属選手はより高いレベルを目指して活動してくれていました。20代ということもあり、こどもたちとともにじゃれあい、ぶつかり合ってのコーチングをしていたと思います。当時の話ですが、悩んでいる子がいればオフの日にドライブをしたり、自宅に数人宿泊してサッカーや将来について語り合ったり、文字通り体当たりのコーチングであったと思います。
中学生のコーチをしている時期に、ある生徒(A君)がチームを辞めることになりました。その原因がチームメイト(B君)からの叱責でした。試合や練習中での厳しい言葉がけがあったようです。A君が辞めてしまったこと自体が失敗ではあるのですが、辞めた原因にもっとも大きな失敗が隠されていました。それは、日頃から私がB君に対して厳しいコーチングをしていたことに端を発します。当時の私は期待を込めてB君には叱責をし、それをB君も受けとめ成長してくれていたと思っていました。ただ、B君からA君への厳しい言葉がけの内容を振り返ってみると、そのほぼ全てがB君に対して発した私の言葉でした。つまり、私がB君に叱責したことで、B君がA君を叱責することになり、A君は深く傷つき辞めてしまったのです。B君としては、チームのためになると思っての言葉でした。むしろ、B君のおかげでチームは成長していきました。換言すると、A君が辞める状況になるまで、コーチである私がその問題に全く気づけなかったことこそが、大きな失敗でした。
原因や背景の省察
自画自賛になりますが、ポジティブな声掛けの多いコーチだったとは思います。また、こどもたちと接する情熱と時間的な余裕もあったので、もし叱責をした場合でもすぐにフォローができました。ただ、自分で直接発した言葉ではなくても、相手を深く傷つけることになるということに、当時はまったく気づけませんでした。むしろ、B君がサッカー選手としても人間としても成長していき、チームも結果がでてきたことをとても誇らしく思っていました。しかし、A君にとってはチームメイトからの関わりによって傷つき、さらに言えば、コーチの私がいても何も安心できない、つらい状況だったのだと思います。
得られた独自の気づき
この経験により、気づいたことがいくつかあります。直接的な暴言はそれ自体が問題だが、自分の問題として認識しやすい。一方、間接的な暴言は問題に取り上げられにくく、被害者には傷が根深く残り、コーチが気づかない場合はさらなる被害を生みやすい。よって、こどもたち同士の交わされる言動や人間関係の中で、こどものこころの変化に気づくことは、実際に直接コーチングをすること以上に重要だという教訓を得ました。つまり、言葉は魔法のように選手に伝わることもあるが、呪いのように伝染することがある。それは、コーチからの直接の言葉かけよりも、選手同士の関わり合いの中で伝わることで、影響が増幅される。そう感じてからは、ポジティブな選手同士の関わり合いを、いかに促発することができるかを念頭に置いて、コーチングをするようにしてきました。

近畿大会出場を決めた試合(奈良学園高等学校サッカー部)
コーチングの変化
執筆させていただいたおかげで、私の過去・現在・未来のコーチングを考える機会を得ました。過去の失敗や経験を重ねることに加えて、家族ができ、子育てをするなど、ライフスタイルの変化によって、私自身のコーチングスタイルは大きく変化しました。現在は、家族との時間を優先させてもらっていますので、主な活動は、ときおり練習を見守ったり、グラウンドの補修をしたり、練習の合間の子たちとボールを蹴ることぐらいです。休日は他の顧問のおかげでクラブの活動が成り立っています。
この20数年の間に、指導現場に関われる時間が大幅に減りましたが、私の中で変わらないものもあります。根っこにあるのは、人が好きということです。心理学者の河合隼雄さんの言葉を借りれば、「ひとりひとりのこどもの中には宇宙」があり、「こどもの存在に対して畏敬の念」を持っています。私が理想とするコーチングは、いわば「アンパンマン」の物語のようなものです。お腹が空いた子に自分の顔を分け与え、笑顔にするアンパンマン。その姿を見て心が温まるように、私も自分の持てる力を注ぎ、教え子たちが健やかに育つ姿を見るのが何よりの喜びです。そして私の願いは、私の教え(あんパン)を受けて育った子たちが、将来、誰かを助けられる立派な「アンパンマン」へと成長してくれることです。その時、私は彼らを裏方として支え、新しい力を送り続ける「ジャムおじさん」のような存在でありたい。そう願っています。
2025年度においては、本高校サッカー部が創部以来初の近畿大会に出場できました。本校初の女子メンバーは高校合同チームに所属し、県で優勝し、近畿大会に出場できました。戦績だけでなく、良いクラブに育っていると感じます。その要因を振り返ると、選手達が主体的に活動をしてくれること、OBたちが積み重ねた基礎があったこと、他の顧問の先生方が休日返上でクラブをささえてくれること、慶應義塾大学東海林先生ゼミの皆さんが1年以上に渡ってライフスキルプログラムを実施してくださったこと、保護者やOBなどのサポートがあったこと、などがあります。本当に、感謝しています。
今までのコーチ人生の中で、多くの失敗や感謝をしてきました。それに対する罪滅ぼしや恩返しを直接行うことができないことも多いです。ですので、せめて目の前にいる子たちに対してよりよいコーチングを行うことで、今までの罪滅ぼしや恩返しができるように、これからも私のコーチ人生を積み重ねていきたいです。
山口敬宣(やまぐちよしのぶ)サッカー指導者

現在、奈良学園中学校・高等学校の保健体育科教諭、サッカー部顧問として活動中。過去、選手としては、OSV Meerbusch(ドイツ8部)、畝傍クラブシニア(奈良県シニアサッカーリーグ2部)に所属。コーチとしては、つくばFC(サッカースクール、ジュニアユース)、横浜FC(サッカースクール)、BKSP(バングラデシュ国立スポーツ学校)に所属。